平成26年度30周年記念大会 報告 [2015/04/01 更新]
平成26年度の民俗芸能学会大会は、さる11月22日(土)~24日(月)の3日間、神楽をテーマに、東京・新宿区の日本青年館(一般財団法人日本青年館)を会場にして開催された。
本年度は学会創立30年にあたり、三十周年記念事業を含めた大会となった。1日目は日本青年館・全国民俗芸能保存振興市町村連盟主催の第63回全国民俗芸能大会に協賛し実演を、2日目は研究発表、基調講演、シンポジウムで研究を、3日目は会員から推薦された神楽映像DVDの上映を行った。参加者は延べ97名(会員75名、一般22名)
1日目【11月22日(土)】
本年の第63回全国民俗芸能大会は日本青年館最後の大会となり大ホールで、昼公演は鶴岡八幡宮御神楽(神奈川県鎌倉市)、金山の稲沢番楽(山形県最上郡金山町)、駒ケ嶽神社の太々神楽(長野県木曽郡上松町)、隠岐島前神楽(島根県隠岐郡海士町)、研究公演は隠岐島前神楽が行われた。なお日本青年館は、国立競技場拡張工事のため取り壊し、他所に建築予定。
2日目【11月23日(日)】
研究発表
田村 明子
氏(司会は俵木 悟 理事)は「神楽を演じる地方公務員 ― 埼玉県の神楽を事例として ―」と題して、民俗芸能の担い手は地域の出身者が多く、特に農業従事者が主であったが近年、神楽では新しい担い手として地方公務員の数が目立って多いことを分析。今後も継続的な調査の必要性を訴えた。
櫻井 弘人
氏(司会は中村 茂子 理事)は「天竜川流域の霜月神楽と神子の習俗」と題して、坂部・向方・遠山を中心にした神子(カミコ)の習俗、つまり病弱な子が産土神に願をかけ、無事に30歳になったときに取り上げの儀礼(神子入りの儀礼)を受けて神子になり、男子は一生涯にわたって産土神への奉仕が義務づけられるという習俗を分析。天竜川流域における霜月神楽の共通性をさぐり、その本質の一端に迫った。
渡辺 伸夫
氏(司会は星野 紘 理事)は「宮崎県諸塚神楽の特色と価値」と題して、夜神楽のある戸下、南川の神楽から舞入れ、採物舞、戸下の綱荒神、山守の特色、その価値について論究した。他に類を見ない例として綱荒神の荒神問答、山守問答を挙げ、最大の特色は神仏混淆の神楽を今に伝えていることであると結んだ。
小島 美子
氏(司会は茂木 栄 理事)は「振から舞へ ― 採り物舞の意味」と題して、本田安次氏の「舞うことによって清められる」の意味から、石上神宮の鎮魂の儀などにおいて神宝の呪力・霊力はゆらゆらと振ることを挙げ、採り物のもつ神霊の力について考察した。
基調講演
「神楽とは何か」山路 興造 氏
民俗芸能学は、「用語」や「分類」の定義が学問的に討議・検討されたうえで定着したものではなく、戦後の行政政策上の要請によって考えられ、普及した部分が多い。歴史的な流れがある程度解明され、民俗芸能の全体が広く見渡せるようになった現在、その成果を基に、もう一度論議の蓄積と、学問的手続きを踏みながら「用語」や「分類」の定義を構築し直さねばならない。今回のテーマはそうした思いから神楽とは何かを問いたかったとし、神楽研究の歴史、神楽の語源を神座、したがって神の依り来る「座」の分類でなければならないとしたうえで、「御神楽から里神楽へ」という従来の先行研究で疑問となる部分をクローズアップさせ、神祇官の関与した宮中祭儀、御神楽と里神楽の用例に触れ、民俗芸能として伝承された神楽は「神を迎えての神賑わい(余興)の芸能が極度に発達し、芸能としての多様性をもつようになる」と結んだ。
シンポジウム「神楽の本質と変容」 司会:茂木 栄 氏
神田 より子
氏は、テーマの発題を受けて「民俗芸能の研究は他分野からの参入が多いこと」、「民俗芸能学という分野が独立した研究領域となっていないこと」を前提に、(1) 先行研究をきっちりと批判し、その上で継承するという筋道が立っていない。(2) そのため学問の深化が見えにくく、自分の興味の範囲からの研究が目立つ。(3) そもそも研究の初発の段階から、概念や定義をきちんとした上で分類がなされることがなかった。神楽では文化財指定に伴う変容、伝統を踏まえない改変等について研究者は後押しをしてこなかったと、など自戒を込めて問題意識を論述した。
久保田 裕道
氏は、演繹的な民俗芸能の分類は現状困難な状況にあり、帰納的に属性を列記してゆくような分析が研究面では必要と説いた。その一方で文化財行政面では分かりやすい分類が必要ながら、例えば獅子神楽の問題では、特に太神楽(大神楽)及び獅子舞を神楽と呼ぶべきか否か。渡来系・伎楽系とも呼ぶべき獅子舞と、太神楽との境界は整理することができるのか。また東北の獅子神楽(山伏神楽)の中には七つ物、シンガクのように神楽から派生した風流的芸能も存在するといった問題を挙げた。
髙山 茂
氏は、太々神楽の変容と本質性について、太々神楽(着面の黙劇という形態)を分析。神職や御師などの宗教者が担ってきた太々神楽は修験道の影響を受けたものであったが、江戸から明治を大きな転換期として変容を余儀なくされた。地域にもよるが、次第・形態等の変化は幕末期に入る前から始まっていたと見られ、それにより神楽の機能的意味も大きく隔たってしまった。
中村 茂子
氏は、愛知県を代表する花祭りを考察。花祭は民家を祭場とする勧請祭で、江戸時代以前から人々の命を更新する息災祈願の祭りとして行われてきた。伝承地・奥三河は昭和20年代まで医師の診察を受けるのも困難で、人々の健康管理は神仏への祈願が一般的であった。その本質「命の更新と来る年の息災祈願」に価値を見いだせない現代社会での変容は当然であり、そこを乗り越えて伝承へ繋げる策が今後の課題と結んだ。
パネリストの発題を発表後休憩、この間質問を整理、活発な質疑が交わされた。
(質疑応答は略)
第8回本田安次賞贈呈式
平成26年度の本田安次賞は該当なし、
本田安次賞特別賞は
下野 敏見
氏著書の
『南日本の民俗文化』
(南方新社)
に決定。
・受賞者および選定理由の詳細は
こちら
3日目【11月24日(月)】
映像上映
会員から推薦のあった作品を大会実行委員会で検討し、地域や系統を考慮して10作品を選定した。推薦者が出席の場合には、上映時に短い解説を依頼。のべ入場者数は会員外を含めて118名、アンケート回収69通、うち全作品を視聴された方は44名であった。
今回の上映は、作品を推薦された会員諸氏ならびに非営利上映を快諾された著作権者の皆さまのご協力なくしては実現でなかった。あらためて御礼を申し上げたい。
また、全国各地の神楽のさまざまな芸態とともに、映像制作のさまざまな手法を紹介することにもなり、今後、民俗芸能研究における映像についての議論の展開と深化が期待される一日となった。
上映作品資料
・各作品の情報は、
上演順、神楽の名称(指定名称による)、
『映像作品タイトル』(芸能の所在地)、[今回の上映時間]、
※映像データ、※スタッフ、※クレジット(※印の3項目は映像内の表示による)、
◎推薦理由、◎推薦者(◎印の2項目は民俗芸能学会会員からの推薦ハガキによる)、
の順で掲載。
上映1:早池峰神楽
・『山伏神楽』(岩手県花巻市大迫町)[49分]
【制作年】1961年、【総時間】49分、【サイズ】4:3
※スタッフ:【監修】本田 安次、【脚本】三隅 治雄、【演出】小此木 辰也、
【撮影】津田 五郎、【音楽】伊藤 宣二、【解説】荒井 義雄
※クレジット:【制作】NHK放送文化財ライプラリー、【製作】NHK、
【映像提供】岩手県花巻市
◎推薦理由:NHKが記録用に作成した未放送作品。本田安次監修による貴重な映像記録。
◎推薦者:山路 興造(民俗芸能学会代表理事)
上映2:里神楽
・『海南神社の面神楽~恵比寿の舞』(神奈川県三浦市三崎)[50分]
【制作年】2005年、【総時間】50分、【サイズ】16:9
※スタッフ:【監修】米田 光郷、【撮影】松崎 高久、【録音】堀口 忍、
【制作】大日野 佳代子、【構成・プロデュース】中藪 規正
※クレジット:【制作】株式会社ポルケ、
【企画・製作】横須賀・三浦・逗葉伝統文化活性化実行委員会
◎推薦理由:神奈川県三浦市三崎の海南神社の例祭翌日と翌々日に境内で演じられる
「面神楽の全曲を記録した映像から。
「恵比寿の舞」は当地の生業(漁労)に由来する演目である。
◎推薦者:石井 一躬(神奈川県民俗芸能保存協会会長)
上映3:大元神楽・大原神職神楽
・『神の声を聞く 託宣』(島根県浜田市・雲南市)[16分]
【制作年】2005年、【総時間】50分、【サイズ】16:9
※クレジット:【制作】株式会社メディアプラン、
【企画・著作】島根県古代文化センター
◎推薦理由:現在では行われない浜田市旭町の大元神楽の託宣が収録されているため。
◎推薦者:藤原 宏大(島根県古代文化センター主任研究員)
上映4:下北の能舞
・『蒲野沢(がまのさわ)の能舞~幕納め』
(青森県下北郡東通村)[57分]
【制作年】2013年、【総時間】87分、【サイズ】16:9
※クレジット:【企画・制作・著作】蒲野沢青年会
◎推薦理由:蒲野沢青年会は国指定重要無形民俗文化財「下北の能舞」の中でも特に
伝承活動に努め、後継者育成、記録保存も積極的に行っており本記録も
同会が作成した。
◎推薦者:外崎 純一(青森県文化財保護審議会委員)
追加上映:震災被災地の芸能
・『3.11東日大震災への民俗芸能の応え』(岩手・宮城沿岸部)[42分+10分]
【制作年】2O11-14年、【総時間】52分、【サイズ】16:9(一部4:3)
※スタッフ:【撮影】阿部 武司・千葉 洋喜・坊良 吉宏・佐々木 重信・後藤 正、
【編集】阿部 武司、【ナレーション】伊藤 美幸
※クレジット:【企画協カ】いわて民俗観光プロジェクト、
【制作・著作】東北文化財映像研究所
◎推薦理由:民俗芸能学会では民俗芸能学会福島調査団の活動などを通じて被災地の芸能
に心を寄せてきた。
被災地には神楽を含む多くの芸能が伝承され人々の心の支えとなっている。
昼食時間を使って岩手・宮城沿岸部の民俗芸能を紹介したい。
◎推薦者:民俗芸能学会事務局
上映5:遠山の霜月祭
・『遠山霜月祭 中郷』(長野県飯田市上村)[6O分]
※【制作年】2009年、【総時間】120分、【サイズ】16:9
※スタッフ:【監修】桜井 弘人、【監督】阿部 櫻、
【撮影】米山 博昭・橋爪 忠博・塩月 寿志・米山 竜吾、【編集】田中 藍子、
【音響】斎藤 常夫、【制作】北村 皆雄・三浦 庸子
※クレジット:【企画】飯田市・飯田市美術博物館・上村遠山霜月祭保存会、
【制作】ヴィジュアルフォークロア
◎推薦理由:湯立てを中心とした霜月神楽を紹介する映像であるため。
全120分のうち「(15) 池大明神の湯立」以降、60分を上映希望。
◎推薦者:櫻井 弘人(飯田市美術博物館学芸係長)
上映6:花祭
・『奥三河の花祭り』(愛知県北設楽郡東栄町・設楽町・豊根村)[42分]
※【制作年】2006年、【総時間】42分、【サイズ】4:3
※スタッフ:【監修】中村 茂子、【ナレーター】徳弘 夏生、
【ナレーター(英語版)】クリス・コプロスキ、
【撮影】松崎 高久・大泉 尚人、【技術】平田 雅一、【音声】堀口 忍、
【編集】浜村 明宏、【CG】佐々木 裕行、【写真】渡辺 良正、
【選曲】松岳 宏明、【MA】山本 英機、【構成・演出】星 智子、
【翻訳】松川 祐子、【制作】大日野 佳代子、【プロデューサー】中藪 規正
※クレジット:【製作】株式会社ポルケ、【企画・発行】株式会社紀伊國屋書店
◎推薦理由:歴史や祭祀を含めて北設楽の花祭りの全体像をよくまとめている。
日本視聴覚教育協会2O05年優秀映像教材選奨受賞作品。
◎推薦者:尾林 克時(東栄町長・全国民俗芸能保存振興市町村連盟副会長)
上映7:伊勢太神楽
・『伊勢太神楽』(滋賀県近江八幡市沖島)[12分]
※【制作年】2004年、【総時間】96分、【サイズ】4:3
※クレジット:【企画】北勢地域伝統文化伝承実行委員会、
【制作】CBCクリエイション、【著作】三重県教育委員会
◎推薦理由:獅子頭が悪魔を祓って幸福を招来するという信仰があるが、これに加えて
放下芸(曲芸)の芸能要素を豊富に取り入れて構成されている。
草分けの山本家による桑名市太夫町の増田神社の祭礼での奉納を中心に伝承
されて今日に至っているが、今回紹介する映像では回檀のようすをよく記録
している。
◎推薦者:吉田 純子(文化財調査官)
上映8:沼田の湯立神楽
・『沼田の湯立神楽』(静岡県御殿場市)[2O分]
※【制作年】1994年、【総時間】67分、【サイズ】4:3
※スタッフ:【監修】本田 安次、【制作協力】クリエイターズクラプ・アルゴ
※クレジット:【企画・制作】沼田の湯立神楽ビデオ制作委員会
◎推薦理由:伊勢の太神楽はさまざまに変化して各地に伝播しました。
御殿場から箱根にかけては場立獅子が多く遺っています。
◎推薦者:髙山 茂 (成城大学大学院講師)
上映9:佐陀神能
・ 『御座替神事と佐陀神能』 (島根県松江市)[26分]
※【制作年】2008年、【総時間】60分、【サイズ】4:3
※スタッフ:【監修】薗田 稔、【制作指揮・構成】茂木 栄、
【プロデューサ】向江 寛武、小泉 タケシ、【ナレーター】那波 一寿
※クレジット:【制作・著作】NPO法人神道国際学会、國學院大学映像民俗学研究室、
ウィング
◎推薦理由:神楽研究では、芸能それ自体だけでなく神事との関連を考察することが必要
です。この映像は神事と芸能の関係をよく示しています。
◎推薦者:茂木 栄 (國學院大学教授)
上映10:高千穂の夜神楽
・『上野(かみの)神楽』(宮崎県高千穂町)[56分]
※【制作年】2013年、【総時間】108分、【サイズ】16:9
※スタッフ:【映像解説・提供】前田 博仁
※クレジット:【制作】宮崎県教育委員会文化財課
◎推薦理由:宮崎県ではユネスコ無形文化遺産の登を目指して昨年度から調査を開始して
います。神楽の保存・継承を目的として作成したDVDです。
神楽の前の神事から面さま送りまでを記録した2時間の映像です。
◎推薦者:緒方 俊輔(高千穂町教育総務謀主幹)
以上
お問い合わせ先
- 民俗芸能学会事務局(毎週火曜日 午後1時~4時)
- 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1 早稲田大学演劇博物館内 [地図]
- 電話:03-3208-0325(直通)
- Mail:office[at]minzokugeino.com (* [at] を @ に換えてお送り下さい。)