平成19年度大会 報告 [2008/04/01 更新]
平成19年度の民俗芸能学会大会は、さる10月27日(土)、28日(日)、29日(月)の3日間、青森県下北郡東通村蒲野沢集会所「山あいの里」で行われた。参加者は44名(会員は34名)であった。
第1日目(10月27日)
開会に先立ち、外崎 純一 大会実行委員長から青森県でも民俗芸能の宝庫といわれる本州最北端の地、下北の東通村で民俗芸能学会大会が開催できたのは東通村教育委員会と蒲野沢の皆さんのご尽力によるものとの挨拶があった。
続いて、東通村の現況を含めて「東通村の民俗芸能」と題する川畑 修二 教育長の講演に入った。
基調講演
川畑 修二「東通村の民俗芸能」
東通村には能舞、大神楽、獅子舞、田植え餅つき踊りが生活に根付いて伝承されている。村の21集落において、児童から高齢者まで伝承に熱心で、その取り組みについて報告したい。
能舞は、中世芸能の面影を残した修験能であり、村内14の集落で伝承し、毎年1月1日に門打ちと屋固めが伝承集落で行われている。また、1月下旬には東通村郷土芸能保存連合会発表会を実施し400名が参加、観覧する。
能舞が東北各地で伝承されている山伏神楽とは明らかに区別するうえからも、能舞の名称を通例としている。
中世、東通村目名不動院は東通一帯を霞支配し、能舞の伝承に大きく関わってきた。それは修験ではたいへん珍しい祈祷場のあったことです。能舞の基本舞はバンガクで、鳥舞のバンガク、翁舞のバンガク、鐘巻のバンガクといい、四角に舞って舞いもどす、足をハの字に広げて腰を落とす。この後、見学行事で道化舞と祈祷の舞「鐘巻」の上演が蒲野沢青年会の皆さんが演じてくれますのでご覧いただきたい。
講演終わって引き続き、総会と第1回本田安次賞の贈呈式を実施。
第1回本田安次賞贈呈式
第1回(平成19年度)本田安次賞は
橋本 裕之
氏著書の
『民俗芸能研究という神話』
に決定。西角井 正大 担当理事より表彰状と賞金が手渡された。
選考経過と挨拶を兼ねて民俗芸能学会 山路 興造 代表理事から論文、書籍、映像の3部門で自薦他薦の数と内容、各選考委員からの推薦など紹介しながら最終選考橋本氏の書籍が学会として最もふさわしいとして受賞した旨報告があった。
山路代表理事は、さらに第2回の対象があったらぜひ積極的に推薦してほしいとも付言した。
・受賞者および選定理由の詳細は
こちら
見学行事 1
第1日目の日程が終わると大会会場は、地元青年会と婦人会の皆さんが交流会会場設営に入り、設営が終わると舞台正面の神棚に御神酒を上げて祝い、一同が着席すると、能舞(道化舞、祈祷の舞)と手踊りが披露され、地元伝承者と学会員とのわきあいあいとしたひとときを過ごした。
・道化舞「しゅうどれい(男礼)」
しゅうどれいは年の始めに嫁の実家に挨拶に行った男が道化を演じる。男と胴取りのやりとりに笑いがこぼれた。
・祈祷の舞「鐘巻」
鐘巻は道成寺物のひとつで、前段では女の優雅で美しい舞と狂っていくまでの舞ぶり、そのウタカケ。後段では修験者の力のこもった舞と必死な鬼女の闘い、ウタカケの繰り返しに、しばし箸を止めた。
・手踊り「餅つき踊」
可愛い臼を真ん中に置き、ハチマキの女性4人が小さな臼を持って輪になって踊り、交流会を盛り上げた。
交流会
交流会は、茂木 栄 理事の進行で学会の参加会員と地元蒲野沢青年会の皆さんに東通村郷土芸能保存会連合会長らも加わり、蒲野沢婦人会の皆さんの手作りの料理に舌つづみをしながら、特別公開の餅つき踊りや獅子舞を見学するという厚いもてなしに参加者一同心の暖まるひとときを過ごした。
第2日目(10月28日)
朝9時から研究発表とフロアトーキングが行われた。研究発表の司会は石井 一躬 理事と入江 宣子 理事が担当、フロアトーキングは髙山 茂 理事が担当した。
研究発表
三村 泰臣
氏は「長江中流域から見た日本の神楽」と題して、
まず日本の神楽の特徴を(1)「天蓋」と呼ぶ飾りものを下げる。(2)「太鼓」が全体をリードする。(3)「順逆の歌舞」を演じる。他に神殿(かんどん)という舞場を建築したり、藁蛇や藁人形を遊ばせることもある。
どうして日本の神楽にこのような特徴が認められるのか、十分に説明されていないが、これらを明らかにしていけば日本の神楽の全体像はもっとはっきりしてくるのではないだろうか。という視点から中国・武陵山区の「長江中流域三角地帯」(重慶市・湖南省・貴州省にまたがる少数民族居住地区)に入って採訪した各種民間祭祀から土家族の「道場」「打繞棺」「打十保福」や苗族の「除霊」などを参考にしながら日本の神楽の特徴について考察し、全体像の提示がなされた。
質疑応答では沖縄では日本国内の事例ばかりで比較研究していたが、中国を含めた東アジアまで広げるという手法はたいへん参考になった。あるいは、神楽に藁人形が用いられているからといって死者の清めと判断するのはどうか、などの意見が出された。
小野寺 節子
氏は「下北地方の祭り囃子」と題し、
祭礼の構成、囃子の用途、囃子の系譜などについて、事例をあげながら映像を用いながら特徴的に提示されたが、そのまえに青森県の津軽・南部・下北3つで、山車祭礼は、津軽地方では鯵ヶ沢町白八幡宮大祭以外には姿を消し、南部・下北地方では盛んに行われ、下北地方のむつ市田名部神社祭礼をはじめ、17箇所の地区で山車の曳行がある。
地区によっては複数の山車があって船型山車の曳行もある。祭り囃子は狭義のには山車囃子のみを定義することもできるが、祭礼には地区の神楽組がカドウチや渡御行列に参加し、所定の場所では盆踊りの踊りや手踊りが行われ、ネブタ行事のダシの曳行が同じ地区で行われていることなどで、地区の人々の祭り囃子の捉え方は一様ではないと結んだ。
質疑応答では楽譜を頼りに伝承していくという流れをどう考えるか。あるいは、口でリズムを伝える方がいい。などの意見が交わされた。
笹森 建英
氏は「能舞 ― 音・音楽 ―」と題して、
視覚的に顕示不可能な現象・意味内容のあるものは音によって表現され得るとし、具体的なリズム、テンポ、音色、旋律等を明らかにして、その意味を検証。
音と音楽の概念は演者、享受者によって異なるものの、神事芸能を音・音楽の現象として分析し、その意味を明確化するすることは可能であり、それは能舞の、より本質的な解明の一手段となる。
法螺貝の倍音系列による音、笛の旋律形、太鼓・鉦のリズム、声の現象、音具の効果音など、それらが意味を具現するのは音色、音量、旋律形等が特定の意味作用を創出するからで、演劇としてのプロット、身体表現、ステージセッティング、衣装、会場の設営、聴衆、上演時間などなどが、より鮮明に意味を獲得し、さらに心理的な効果をもたらすのは音・音楽によるところが大きいと結んだ。
質疑応答では楽器は科学的に分析、検証すべきモーションピクチャー、バーチャルリアリティーで実質的な本質を伝えられるか疑問。あるいは五線譜でないものもあるか。などの意見が交わされた。
フロアトーキングは
外崎 純一・川畑 修二
両氏をパネラーに髙山理事が番楽研究の現状を踏まえ、能舞の儀礼の舞、武士舞、祈祷の舞、道化舞を中心にした修験系神楽に対して、地元研究者の内側からの視点と外側から見た研究者の視点とを交えて、下北地方の民俗芸能の特性に迫った。
見学行事 2
午後は奥内小学校へ移動し、校内にある立派な多目的活動室で、奥内敬神会(鳥山 健蔵 会長)の神楽(獅子舞)と奥内歌舞伎保存会(井田 昌則 会長)の忠臣蔵五段目を見学した。
地元では歌舞伎のことをシバヤ・シバイといい、シバヤ・シバイに先立って神楽(平獅子)が行われた後、上演するというしきたり。当日は地元の皆さんも遠慮がちに後方で座し、祝い袋を舞台にそっと置いて座に戻る熱い声援に心打たれる見学会であった。
宿に入る前、本州最北端の地(北緯41度33分・東経140度58分)に建つ碑を確かめながら北海道の渡島連峰をのぞんだ後、宿に落ち着く。
夜は井上 靖など文学者も多く泊まった下風呂(しもふろ)温泉郷でリラックス。
第3日目(10月29日)
朝、津軽海峡をのぞむ旅館・ホテル12軒の下風呂温泉郷を出て、見学行事となる。
見学行事 3
見学地の最初は大畑川に続く薬研渓谷の紅葉で、じつに鮮やかなコントラストに感動した後、次の恐山に向かう。恐山では入山受付所から順路に従って境内の見学コースを廻り、午前中の予定を終了し、大会を閉じた。
以上
お問い合わせ先
- 民俗芸能学会事務局(毎週火曜日 午後1時~4時)
- 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1 早稲田大学演劇博物館内 [地図]
- 電話:03-3208-0325(直通)
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