令和2年度大会 報告 [2021/04/01 更新]
令和二年度民俗芸能学会大会は12月12日(土)、オンラインで開催された。参加者は延べ103名(会員78名、非会員25名)であった。
研究発表
(※発表概要は発表者原稿をもとに作成)
・近藤 大知
氏
「遠山霜月祭の継承と『木沢霜月祭り野郎会』」
飯田市南信濃・上村は「遠山」と呼ばれる地域である。この地域に伝えられる「遠山霜月祭」は、現在八か所で行なわれている。いずれも12月に行なわれ、かつては旧暦霜月に行なわれたことから「霜月祭」と呼ばれる。祭りの構成は、前半に神迎えがあり、それを湯でもてなす湯立が繰り返され、後半は地域の神々などを模った「面」が登場し、最後に神返しをして終わる。その担い手は、「ネギ」という在地の宗教者が、湯立などの〈神事〉を中心に執行し、その集落の氏子が準備から当日の賄い、片付けまでの〈運営〉を担っている。
遠山霜月祭は、平成10年頃から四つの集落で湯立をともなう大祭が休止・中止となった。そのうち三つが遠山谷中部に位置する木沢地区の集落である。木沢地区には、木沢、小道木、川合、上島、八日市場、中立、中根、須沢の八つの自治会から成り、これが旧木沢村の範囲である。また、各集落の高齢化が進み、祭日の変更や祭りの開始時間を早めた地域も出てきている。
こうした背景を踏まえ、神楽舞等の習熟し、継承することを目的として、平成26年(2014年)に「木沢霜月祭野郎会」が結成された。メンバーは木沢地区の出身者を中心に、南信濃・上村地区在住や出身者、その他にも会の趣旨に同意し役員が認めた者が加わっている。年齢は10代から40代で構成され、現在会員は約30名在籍する。活動は、祭りの前に舞や笛、湯立などの練習を行ない、木沢地区の本祭りに参加する。木沢地区の複数の祭りに参加し、そのサポートをするという点が特徴である。このように祭りの〈神事〉や〈運営〉の一部を補助する組織として機能している。近年では、祭りに必要な榊の提供や、中学生の文化祭での「郷土の舞」などの指導も行っている。野郎会の存在はこの木沢地区の祭りの継承にとって比重を増している。今回は、「木沢霜月祭り野郎会」結成の経緯、目的などを通してその現代的な意義を考察する。
・大山 晋吾
氏
「南九州の神楽における「金山」「宇治」舞の意味」
オンライン大会では、「南九州の神楽における「金山」「宇治」舞の意味」というタイトルで発表をおこなった。南九州(宮崎県~鹿児島県)の神楽から「金山」「宇治」舞という演目を対象とし、その分布と演目構成、詞章について採り上げた。要点を以下に述べる。
「金山」「宇治」舞は、(A)「地割」舞から連続する演目として伝承されている事例と、(B)「金山」「宇治」舞として単独で伝承されている事例の二系統に分類できる。(A) と (B) では用いられる面、演目の内容がそれぞれ異なる。また、「金山」の詞章には南九州で地神盲僧が唱えた「地神経」の文言と共通する内容がある。
発表を受けて、3名の方から (1) 神楽全体の中での「金山」「宇治」舞の位置づけ、(2) 地神経と詞章とが共通している理由と分布の意味、(3) 地神盲僧の活動範囲、についてそれぞれ質問を頂いた。今後は「金山」「宇治」舞が「地割」の中で演じられることをどのように理解するべきか、ということを念頭に踏まえ、研究を進展させていきたい。
・矢嶋 正幸氏
「五行神楽と岩戸開き~神楽と近世神道説について~」
本発表では、関東地方の神楽をもとに、近世神道説が神楽に与えた影響を考察した。まず、先行研究では、近世、神楽の神道化は外的なものが主であり、内質は前代のものを残していると評価される傾向があると指摘した。そうした近世神道を評価しない言説は、柳田国男の『神道私見』に遡るのではないかと述べた。次に関東地方の例として、鷲宮神社・榛名神社・大宮住吉神社を取り上げた。さらに記録に残るものとして、品川神社と磐井神社を取り上げた。これらの神楽の比較から、もともと関東にも存在していた他地方と同系の『簠簋内伝』を典拠にした劇的な五行神楽が、『唯一神道名法要集』を典拠とした舞踊的な五行神楽に変わり、さらに岩戸開きの演目に取り込まれるようになったと推測した。また、先行研究では、神道化は外的なものが主とされがちであったが、神道説を取り入れることで演目の意義にも変化が見られることを指摘した。
質疑応答では、「神道説」「神道式」といった用語の曖昧さ等についての指摘があった。
・福原 敏男氏
「山・鉾・屋台」と山車」
2016年、国指定重要無形民俗文化財の三三の祭りが、ユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」として登録され、「山・鉾・屋台」が三三祭に登場する造形物の総称とされた。「山・鉾・屋台」は千数百件もの祭礼に登場し、山車(だし)・だんじり・曳山・ねぶたなどと称される多種多様な造形物が氏子地域などを巡行する。
近世の祭りにみえる「出し」は祭りに限らず、竿や柱の頭部につける飾りや標(印)を指す一般名詞であり、傘鉾、吹貫、万度、町印などの頭部(傘や屋根上に突き出た先端)の飾り・意匠の総称として、現在まで使用されている。
江戸の諸祭礼における「出し」は、一本柱先端の名称であると共に、全体名称として用いられ、明治前半に「山車」などが造語された。
現在特に東日本では、山車が「山・鉾・屋台」の総称として定着しつつあり、それは、戦後におけるマスメディアの発達、高度経済成長期の観光の盛況、民俗文化財の制定などを契機として浸透し、山車は四輪曳山の個別名称(民俗語彙)として使用されることも多くなっている。
本田安次賞授与式
長年、民間念仏信仰の調査研究をされていた坂本 要氏が、これまでの研究の集大成として刊行されたのが本書『民間念仏信仰の研究』(法蔵館、2019年10月)である。
第一章 民間念仏の系譜、第二章 融通念仏と講念仏、第三章 六斎念仏の地方伝播、第四章 双盤念仏 ― 芸能化された声明、第五章 大念仏と風流踊り ― 念仏踊りの二部構成、第六章 傘ブクと吊り下げ物。いずれの章にも先行研究とともに新しい資料が加わり、実証的な念仏系芸能研究となっている。また、日本列島における念仏系の芸能の種類と分布が坂本氏の地道な長年にわたる調査研究の結果で明らかになってきた。その全貌がやがて解き明かされることになるであろう。丹念な現地調査と積み重ねた努力が伝わる労作である。本田安次特別賞にふさわしい研究成果であると認め、本田安次賞特別賞を授与することとした。(本田安次賞選考委員会)
本田賞選考委員
坂本 要(取りまとめ役)、板谷 徹、鈴木 正崇、茂木 栄、山路 興造、和田 修、渡辺 伸夫、丸山 妙子(令和元年)、風早 康惠(令和二年)
フォーラム
民俗芸能をつなぐ/民俗芸能研究をつなぐ
民俗芸能学会は民俗芸能を研究対象とする学術団体であり、全国各地に会員を有している。年一回の大会は、会員が一同を会する交流の場であるが、今年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、オンライン形式で開催する運びとなった。コロナ禍の中で次々と祭礼が中止となり、民俗芸能の上演の機会が失われている中で、これを研究する私たちは、手応えの感じられない日々となっている。その一方で、離れて住む人々と気軽につながることができる技術革新に希望を抱いてもいる。本大会は、対面形式の代替という消極的判断ではなく、地域に縛られることないオンラインの特性を活かし、オンラインの可能性を探る機会としていきたいとして、大会実行委員会はフォーラム「民俗芸能をつなぐ/民俗芸能研究をつなぐ」を企画した。
第一部「各地の会員をつなぐ―民俗芸能と研究の現況―」
聞き手:大石 泰夫、髙久 舞
話し手:外崎 純一(青森県)・阿部 武司(岩手県)・垣東 敏博(福井県)・武田 俊輔(滋賀県)・神野 知恵(大阪府)・福持 昌之(京都府)・石山 祥子(島根県)・柴田 真希(福岡県)
第一部は、日本全国の会員に、それぞれの居住する地域や調査フィールドの民俗芸能についてのお話を伺うことで、現在の民俗芸能と民俗芸能研究がどのような状況にあり、どのような問題を抱えているのかを考える場にしたいと考える企画であった。
日本全国の会員から、上記の8人の方が聞き手を引き受けて下さり、それぞれの地域の今年度の状況を話してもらうことができた。もちろん、コロナ禍によってほとんどが中止となったわけであるが、その中での様々な現象が報告され、伝承地・伝承者の考え方が示された。いつもの年とは異なって、広範囲にフィールドに入るような活動ができなかった会員が多かったと想像できるが、全国の民俗芸能の実情が示されて、有益な情報交換の場になった。
改めて考えてみると、こうした企画は今までの対面の方法ではなかなかできなかったことで、コロナ禍によってテレビ会議システムが普及したことによって実現できることを模索したたことが、ある程度達成できた試みであったといえよう。
第二部「民俗芸能のネットワーク組織―これまでとこれから―
パネリスト:小川直之・大谷津早苗・菊地和博
コメンテーター:久保田裕道
司会:舘野太朗
第二部は、民俗芸能のネットワーク組織に関わっている会員をパネラーに迎え、そうした組織における研究者の役割について議論を行なった。民俗芸能の上演や継承に関する活動が難しい状況のなかで、これまでの民俗芸能のネットワーク組織の取り組みを参照するとともに、これからの支援のあり方を検討したいというのが企画者の意図である。
前半では、司会による趣旨説明に続いて、大谷津氏からは半世紀以上の歴史のある神奈川県民俗芸能保存協会について、小川氏からはパートナー企業制度など特色ある活動の見られる南信州民俗芸能推進協議会について、菊地氏からは山形県での組織作りと取り組みについて、それぞれ報告していただいた。後半では、コメンテーターの久保田氏が地域やジャンルを越えた多様なネットワーク組織の事例を紹介して論点を広げ、参加者からのコメントを交えて話し合いを深めた。
今回のフォーラムは、登壇者をテレビ会議システムでつなぎ、その様子をライブ配信するという方式を採用した。チャット機能を使ってコメントを募ったが、使い慣れていないという参加者も少なくなかっただろう。この場を借りて、コメントをしていただいたみなさんに感謝するとともに、システム上の問題で自由に参加できなかった方にお詫び申し上げたい。
以上
お問い合わせ先
- 民俗芸能学会事務局(毎週火曜日 午後1時~4時)
- 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1 早稲田大学演劇博物館内 [地図]
- 電話:03-3208-0325(直通)
- Mail:office[at]minzokugeino.com (* [at] を @ に換えてお送り下さい。)