平成29年度大会 報告 [2023/12/19 更新]
平成29年度民俗芸能学会大会は、椎葉民俗芸能博物館開館20周年を記念して民俗芸能学会、椎葉村・椎葉村教育委員会共催、宮崎県・宮崎県教育委員会・宮崎民俗学会の後援を得て、12月1日(金)から3日(日)にかけて宮崎県椎葉村開発センターを本会場として開催された。民俗芸能学会椎葉大会は平成9年以来20年ぶりに同地で開催。参加者は、延べ70名(内訳:会員48名、会員外22名)他、地元民の参加もあった。
1日目【12月1日(金)】
開会行事
熊本空港・日向市駅より送迎バスにて椎葉村入り、鶴富旅館にて懇親会が開かれた。最初に「松尾大いちょう太鼓」による歓迎の和太鼓の演技があり、髙山 茂 民俗芸能学会代表理事による開会挨拶、村長 椎葉 晃充 氏の歓迎挨拶、椎葉村議会議長の椎葉 邦義 氏の乾杯の音頭にて始まり、尾前神楽「子ども神楽」の熱演、黒木 忠 氏の「ひえつき節」が披露された。椎葉神楽保存連合会長の尾前 秀久 氏の万歳三唱にて和やかなうちに終了した。
2日目【12月2日(土)】
椎葉村開発センターにて、午前は大会実行委員長・椎葉村教育委員会教育長 甲斐 眞后 氏による挨拶に続き、6人の研究発表と質疑応答、昼食時間に評議員会を開催、午後は基調講演とシンポジウム、本田安次賞授与式に続き、総会後、夕刻から翌朝まで不土野、向山日添の2ヶ所に分かれて神楽を鑑賞した。(なお当初予定されていた嶽之枝尾神楽は集落の事情で取り止めになった。)
研究発表
・児玉 絵里子
氏(司会:田中 英機 氏)
「綾子舞と琉球舞踊 ― 芸態比較研究による小歌踊と二才踊・若衆踊」
綾子舞の小歌踊と沖縄の宮廷舞踊は、本田 安次により、組歌形式を成す点で共通すると指摘された。発表者は、小歌踊と琉球舞踊の芸態を比較対照研究するという新しい視点を取り入れ、小原木踊(小歌踊)・若衆特牛節(若衆踊)・上り口説(二才踊)における、扇やふり、身体の動きの共通点を初めて明らかにした。若衆特牛節と上り口説が古歌舞伎踊りに由来してその系統にあり、古歌舞伎踊りの形式をより色濃く残す若衆特牛節が制作された後、発展型として上り口説が制作された可能性を指摘した。
・生田 浩
氏(司会:田中 英機 氏)
「烏天狗と御霊送り」
宮崎県西都市尾八重地区の祖霊祭で神楽社中会が奉納する烏天狗の舞を紹介し、尾八重独自の神楽の形態や一族の祭りとしての継承を知って頂くことを重点にお話をさせて頂きました。質問のあった「面の出自」や「族」の形態、その範囲については尾八重独自の一族思想もあるかと思いますが「族が俗化してしまった」と考える尾八重神社 中武 貞男 宮司の口伝伝承を丁寧に聞き取ることで、解き明かされていく部分もあるかもしれません。今後研究が進むことで、見えない思想から見える芸能へ変化する様が見えてくるのではないか?と私は期待しております。
・甲斐 祐貴
氏(司会:大谷津 早苗 氏)
「宮崎県の神楽における「年の神」の分布」
宮崎県の神楽の中には、その番付の中に「年の神」と呼ばれる演目、もしくはそれに類似する演目が存在している。この演目は、五穀豊穣・子孫繁栄などの意味合いが強く表れている。これらの演目は、明け方の眠い時間帯に目覚ましで行われる点や、台所用品、稲作にかかわる道具が採り物に使用される点などの共通点がある。各地の神楽の比較や、小野重朗はじめ先行研究も踏まえて、今後「年の神」の各地域における性格や変遷等について検討していきたい。
・大山 晋吾
氏(司会:大谷津 早苗 氏)
「南九州の神楽における「鉾舞」の展開」
本発表では神楽の演目である「鉾舞」の分布地域とそのバリエーションについて採り上げ、詞章に説かれる内容と霧島信仰との関連を主な論点とした。質疑応答では大森 惠子 氏より、山岳修験と中世神話の観点から、「鉾舞」の詞章の内容理解について重要な指摘をいただいた。椎葉神楽の見学も含め、貴重な経験のできた3日間であった。
・湯川 洋史
氏(司会:茂木 栄 氏)
「民俗芸能を継承するとはどういうことか ― 中江岩戸神楽の現在 ―」
本発表では熊本県阿蘇市波野地区において現在も行われている国選択の無形民俗文化財中江岩戸神楽の現状及び継承の実践について述べた。中江岩戸神楽では芸態をはじめとした変化が見られた。そうした変化は神楽を次代へと継承していくために必要な舞台という神楽習得の場を確保するための実践であったと言える。この継承の実践においては民俗芸能としての神楽を継承することに主眼があるのではなく、むしろ神楽という民俗芸能を通して次代へと伝えたいことがあるのではないかと考えられる。
・佐々木 昌代
氏(司会:茂木 栄 氏)
「夜神楽の舞と後継者育成の仕組み ― 銀鏡神楽を中心に ―」
舞の手順を覚えることに止まらない、心に染みる夜神楽を継承していくには伝承内容と共に伝承過程を重視する必要があり、伝承過程には地域と夜神楽の後継者を育成する仕組みが巧みに仕掛けられていることを述べた。過疎高齢化に曝され、抗する仕組みの現状として、銀鏡神楽の格付けと手割、尾八重神楽の家持ち神楽を概説した。手割されて舞えるようになるのではとの質問を受けたが、銀鏡神楽では舞えるようになって手割される舞の格付けが上がる仕組みである。
シンポジウム「来訪神と芸能」と基調講演
司会は小川 直之 氏。村や家々に訪れ来る神信仰と芸能との関係については、折口 信夫の「まれびと」論など、民俗芸能研究にとっては大きな課題の1つである。椎葉村の嶽之枝尾神楽には「宿借り」、諸塚村の戸下神楽には「山守」の演目があり、これらは村に来訪する神との関係が議論されてきた。渡辺 伸夫 氏の基調講演は、これら演目の意味と成立に関するもので、その祭文や問答の内容などから、「宿借り」「山守」は山の神祭祀の一形式が演目化されたもので、中世末から近世初めの成立と考えられることを述べられた。
シンポジウム講演では、伊藤氏は「おとづれ神」の研究史に触れてから韓国の巫堂による「山神」、バリ島のトペン、中国の「儺」などから、「おとづれ神」は具体的な姿をもつこと、異邦人的性格があること、主神に対して敵対的かつ補佐的な側面があること、巡回性が濃厚であることを指摘された。大城氏はマユンガナシィ、アカマタ・クロマタ、アンガマ、長者の大主などについて、その実相と長者の大主については折口 信夫と伊波 普猷とは位置づけが異なることなどを述べられた。
これらの講演の後に、短い時間であったが討論を行い、「宿借り」「山守」の山人は来訪神といえるのかなどについて、質疑を行った。
・基調講演:
渡辺 伸夫
氏 「『宿借り』と『山守』の世界」
神楽における来訪神といえば、宮崎県椎葉村嶽之枝尾神楽「宿借り」と諸塚村戸下神楽「山守」がその典型であり双璧であろう。前者は旅人(山人)、後者は山守(山人)である。両者の特色の第一は、仮面仮装ではなく、蓑・笠・杖の姿の異装である点であるが、その表現は全く趣きを異にする。「宿借り」は破れ笠に蓑を背負ったみすぼらしい姿の旅人が竹杖をつき、暗くなって神楽宿に現れ一夜の宿を乞う。「山守」は山で伐った生木の榊(または椎の木)の大枝を杖として携え、花笠をかぶり、葛の巻きついた榊を輪にしたものを袈裟がけにして、山から神楽宿に現れる。外から現れるのは来訪神として重要である。
特色の第二は、御神屋の内と外、境界をはさんで問答を行う点である。宿借り問答は、歌妻のいわれと旗雲のいわれからなる。山守問答は、掛句・四季の句・七ッ歌・姿の句・山の本地・尊のいわれ・四方四季のいわれ・旗雲のいわれからなる。
基調講演では、宿借り問答の歌妻のいわれと、山守問答の山の本地に焦点を当てた。
・パネリスト:伊藤 好英
氏 「東アジアの訪れがみ」
「来訪神」と「まれびと」と「訪れがみ」。この3つのことばを並べてみると、極めて類似の対象を指しているようにも見える。しかし「来訪神」は、「滞在神」と対置する語として使われてきたし、「まれびと」の解釈も人によって異なっているので、本発表では「訪れがみ」の名を使用して、やって来る神のことを考えた。
「訪れがみ」はどこから訪れて来るのかを最初に問題にした。その場所とは、必ずしも実際空間の遠方ではなく、距離の遠近に関係なく、こちらの世界と断たれた普段は不可視の世界で、「訪れ」とはその世界からのものである。このような想定で、具体的には『楚辞』「九歌」の「山鬼」、バリ島の仮面神「シダカルヤ」、中国石郵村の儺神、韓国河回の別神クッなどを対象として、「訪れがみ」出現の契機について考えた。
・パネリスト:大城 學
氏 「沖縄・八重山地方を中心とした来訪神芸と芸能」
沖縄でニライカナイ(常世)から来訪する神(まれびと)と芸能の関わりは、八重山地方では「マユンガナシィ」が節祭に出現して、各戸を訪ねて祝福する。退去する際に庭で六尺棒を持って神舞の一振りをみせる。「アカマタ・クロマタ」は豊年祭に出現して、新城島では村人が神歌を歌う。「アンガマ」が盆に出現する。ウシュマイ(翁)とンミー(アッパーともいう。媼)が眷属を大勢引き連れて座敷にあがり、ウシュマイとンミーが口上を述べた後に、眷属が楽器を奏し踊りを披露する。沖縄及び八重山地方では村踊りや種子取祭に「長者の大主」と「天人」が登場する。長者は眷属を引き連れて登場し、両者とも踊る。天人は眷属を引き連れず、踊ることはない。
第11回本田安次賞授与式
平成29年度本田安次賞選考結果・選考理由が本田安次賞選考委員会 渡辺 伸夫 委員長から報告され、本田安次賞奨励賞が
高久 舞
氏と
矢嶋 正幸
氏に授与された。当日、高久氏は欠席だったため、賞状と賞金は後日事務局でご本人に手渡された。
・受賞者および選定理由の詳細は
こちら
神楽見学
夕刻から翌日朝にかけ、不土野神楽、向山日添神楽の二グループに分かれて神楽見学を行った。
2日目【12月3日(日)】
神楽終了後、椎葉村の大会実行委員によって用意された食事を頂き、博物館見学を行った後、バスにて熊本空港、日向駅に向かった。
以上
お問い合わせ先
- 民俗芸能学会事務局(毎週火曜日 午後1時~4時)
- 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1 早稲田大学演劇博物館内 [地図]
- 電話:03-3208-0325(直通)
- Mail:office[at]minzokugeino.com (* [at] を @ に換えてお送り下さい。)