平成28年度大会 報告 [2017/04/01 更新]
平成28年度民俗芸能学会大会は、11月20日(日)に國學院大学渋谷キャンパス120周年記念2号館2104教室を本会場として開催された。参加者は延べ83名(内訳 会員61名、学生11名、一般10名)
大会実行委員長の西角井 正大 氏による開会の挨拶に続いて4名の研究発表が行なわれた。
研究発表
星野 紘
氏
「牛と熊の芸能の違い」(司会は小野寺 節子 理事)
今から18年前の12月に酷寒の西シベリアの雪原(宿営地)にて四夜の熊祭り(ハンテ人のもの)を採訪した。95の演目を日本の民俗芸能と比べ、相似する点、異なる点、あるいは折口 信夫の“まれびと芸能論”を想起させる点について言及した。
フロアーの2名から次のような質疑があった。記紀の“あめのひぼこ”説話に記載の「熊の神籬一具」、韓国の檀君神話、熊形象の中国北部の儺との関係は如何に?
高久 舞
氏
「伝承キーパーソンと祭囃子」(司会は小野寺 節子 理事)
東京都大田区、神奈川県川崎市の祭囃子伝承者らが語る特定の人物…「伝承キーパーソン」の具体例をあげ、音曲的影響、個人同士の交流、伝承キーパーソンには、実態を伴っている人物と後世の人々が作り上げている人物がいることを指摘した。民俗芸能の「個」の問題は、天才的な「異常人物」だけではなく、「伝承キーパーソン」をみていく必要がある。彼らがどう受け入れられ、選択され、影響を受けたのかといった伝承の過程をおっていくことが重要であるとの指摘を受けた。
矢嶋 正幸
氏
「新作神楽曲目の作り方 ― 秩父神社神楽を中心に ―」(司会は大森 惠子 会員)
新しい芸能が生まれる仕組みについて発表をおこなった。秩父神社神楽は明治維新期に中断し、その後復興がなされた。そのときに幕末に途絶えた養蚕に関わる曲目が「養蚕指導」という名称で、(1) 外部的な要請、(2) 伝承者に内在している資源、(3) 時代の感覚、これらが結びついて、復興というよりも新作といった形で作られたことを考察した。大石 泰夫 氏から伝承者の認識について、小野寺 節子 氏からは伝承組織についての実態についての質疑があった。
福西 大輔
氏
「震災が民俗芸能へ与えた影響と解題について ― 熊本地震を事例として ―」
(司会は大森 惠子 会員)
熊本地震が地元の民俗芸能にどのような影響を与えたのかを考察した。民俗芸能を構成する要素、担い手・奉納場所・道具・資金源等が被災したことを報告した。また、復興イベントが開催され、その中でも民俗芸能が行われ、変容の危機があると述べた。そして、震災以前の形で民俗芸能が行われ、継続できる状況を作り出せた時に真の復興ではないかという考えに対して、担い手が望めば、変容も容認していく姿勢も大切ではないかという意見も出た。
基調講演
小川 直之 氏「芸能伝承と地域社会 ― 継承のコスト負担とコミュニティー ―」
1990年代からの日本社会の少子高齢化は深刻度を増し、各地域の民俗文化(Traditional Culture)は、その継承をめぐって多くの困難を抱えている。こうした現状のなかで民俗芸能の継承をめぐりさまざまな取組みが実践されている。その具体例として、講演者が関わっている広島県北広島町のNPO法人壬生の花田植保存会、長野県下伊那地方事務所・南信州広域連合による「南信州民俗芸能パートナー企業制度」、宮崎県の「みやざきの神楽魅力発信委員会」などの活動を紹介し、芸能実修のコスト負担、継承組織の再構築について論じた。
シンポジウム
テーマ「芸能伝承の現状と新しい動き」
(司会は八木橋 伸浩 会員)
齊藤 裕嗣
氏【文化財行政の視点から】
文化財保護法による支援は、国指定など対象が限定的かつ個々の文化財ごとに実施されてきました。近年、少子高齢化など地域の急激な変化による危機的状況に対し、新たに、国未指定も支援対象とし、かつ地域全体を視野に各種文化財を総合的にとらえた、例えば「歴史文化基本構想」を前提にした「文化遺産を活かした地域活性化事業」補助など新しい動きが始まっています。
田村 智和
氏【伝承者の視点から】
「青森県下北郡東通村の民俗芸能の概況」
集落毎に競い合い活発に伝承してきた東通村の民俗芸能も、社会や意識の変化により、神事の必要性や伝承者の芸能に対する認識が不足し、近年では活動が衰退してきている。
現在、私は村議会議員として同志と共に芸能伝承による村の振興を図っている。伝承者として皆様にお願いしたいことは、芸能の観光資源化よりも、基礎となる保存団体を守るため、地域で努力している伝承者の活動に対しての支援や協力が、今必要とされている。
中藪 規正
氏【事業企画の視点から】
芸能伝承者の減少にともない、伝承者の確保とともに用具衣装の整備や練習場所の差配あるいは上演機会の確保はかねてからの課題で、芸能伝承にかかわる費用は地域の大きな負担となっている。文化庁では、平成22年度から制度を替えながら国庫100%の補助事業を行ってきた。これらの事業における地域の現状と事業後の活動、事業の理想と現実あるいは中央の指針と乖離しつつある地域の状況に内包される問題点を指摘した。
松尾 恒一
氏【海外交流の視点から】
「長崎の春節と媽祖行列 ― 華僑による歴史の復興と持続 ―」
江戸時代、長崎において清国からの商船の航海安全の女神「媽祖神」を、唐人屋敷へと運ぶ「媽祖行列」が行われていたが、1989年(平成元年)に、長崎の一華僑によってこの行事が復興され、新地中華街の春節祭における一行事として継続している。復興の際に関わった媽祖の故郷※州島との交流は現在も続いているが、こうした動態に注目して、都市祭礼の創生と伝承の特質について考察した。質疑を受け、長崎においては、伝統文化や歴史についての市民の学習・理解の進化と、自発的な伝統文化を活用した地域活性化の活動といった好循環がみられる現況などを述べた。
(註)※は「さんずい」に「眉」という漢字です。
第10回本田安次賞授与式
本田安次賞選考委員会の渡辺 伸夫 委員長から、平成28年度は
山﨑 一司
氏の長年の調査・研究と一連の著作
に対して本田安次賞特別賞の授与が決まったこと、特別賞の候補として、民俗芸能の映像記録を多数製作している複数の会員の名前があがったが意見がまとまらず今回は見送りとなったこと、本田安次賞は該当者なしなどの選考経過が報告され、髙山 茂 代表理事から山﨑 一司 氏に賞状と賞金が授与された。
・受賞者および選定理由の詳細は
こちら
以上
お問い合わせ先
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