平成25年度大会 報告 [2014/04/01 更新]
平成25年度の民俗芸能学会大会は、10月19日(土)~21日(月)長野県飯田市、飯田市教育委員会、伊那谷民俗芸能団体連絡協議会の共催、柳田國男記念伊那民俗学研究所、南信州獅子舞フェスティバル実行委員会、和歌山大学観光学部の協力を得て、飯田市美術博物館講堂で開催した。参加者は延べ75名(会員51名、一般24名)
10月19日(土)
開会行事
片桐 登 大会委員長、続いて牧野 光朗 飯田市長の挨拶があり、オープニングイベントとして歌舞伎浄瑠璃「菅原伝授手習鑑 寺子屋の段(いろは送り)」を片桐 登 氏(大鹿歌舞伎太夫)が演じ、開会を盛り上げた。
研究発表
山路 興造
氏は「紀州花園の仏の舞と西浦田楽のはね能」と題して、61年に一度演じられる「仏の舞」が高野山麓の山伏修験たちにより「猿楽能」として再構成された芸能であることを、西浦田楽のはね能「八島」の冒頭の一句(そも御前に罷り立ったる男をば、これいかなる者とやおぼしめす、八島の御物語申さんため、罷り立って候が)、広島県庄原市戸宇栃木家所蔵延宝八年の神楽台本「鞍馬天狗」(抑も御前に罷りたったるシンカをば、如何なる身とやおぼしめす、是はそも源氏の朝臣に牛若一子とはそれがしがことに候)、岩手県宮古市黒森神楽「定家」詞章(参候、こう御前に罷りたる沙門とおぼしめす、我はこれ都に隠れもなきなにうらや)、岩手県花巻市湯本羽山神楽「金巻」詞章、山形県由利本荘市二階番楽「舟弁慶」詞章などを取り上げて、その共通の特色の一つが「能曲」の登場人物の名乗りの一句であったと説いた。(司会は髙山 茂 理事)
松岡 薫
氏は「俄の伝承を支えるもの ― 長崎県新上五島町有川郷の十七日祭りを事例に ―」と題して、そこで演じられる俄で生起する複合的で多層的な様相、例えば、かつては捕鯨で栄えた地域性、海童神社(祭神:海童神)には鯨の肋骨が鳥居として供えられた神社、鯨肉が直会に欠かせない習俗、有川湾で行われるイルカ漁ではイルカの肉を集落に配分するなどを指摘し、鯨について語られることのない祭礼の背景を丁寧に分析した。(司会は小島 美子 理事)
高久 舞
氏は「特化された楽奏者 ― 花輪ばやしと『芸人』―」と題して、秋田県鹿角市の幸稲荷神社例大祭(毎年8月19日~3日間)は花輪ばやしと呼ばれているが、囃子の太鼓と鉦は各町の住民が演奏し、笛と三味線は「芸人さん」(町周辺の農村地域から呼ぶ)が演奏する。祭礼の3週間ほど前から始まる囃子の稽古に参加する芸人に注目し、その存在が花輪ばやしにどのような影響を与えているのか、出自、系譜、楽奏の伝承などから特化された楽奏者を考究した。(司会は入江 宣子 理事)
西嶋 一泰
氏は「津軽の虫送り考」と題して、青森県津軽地方の芸能化した虫送りの変遷を、江戸時代の寛政8年に菅江真澄が目撃して記した『外浜奇勝』から明治7年に青森県が「野蛮の風習」として禁止するが現在も虫送りは絶えることはない。その伝承のきっかけは、寛文期に津軽藩の政策として始まった「虫除祈祷」であり、それが農民の田植え後の一休みである「さなぶり」と集合し、半ば娯楽として芸能化していったものと考えられる。禁止後は「ねぶた」との集合や、意味付けの変化等によって支えられている現状を説き、今回未報告の津軽の虫送りに付随する先払い、道化的な意味がある荒馬の変遷は次の課題と結んだ。(司会は神田 竜浩 理事)
質疑は略
10月20日(日)
柳田國男館見学
福田 アジオ
氏(柳田国男記念伊那民俗学研究所所長)案内による館内見学。
講演
櫻井 弘人
氏は「南信州の屋台獅子の誕生と展開」と題して、伝承地の屋台獅子を映像とともに芸態の特徴や祭礼習俗などを紹介した。最初に長野県内の獅子舞は約550か所で、南信州には約90あって、天竜川西岸は屋台獅子、天竜川東岸は籠獅子(喬木村佐久間・阿島・大和地)、周辺部は大神楽獅子(天竜村福島、飯田市此田、同市三穂、阿智村木賊)の分布状況を地図にプロットして示し、屋台獅子の源流は大島山瑠璃寺獅子舞として同寺文書『萬覚記』の獅子の由来から獅子舞の中断、そして再興は「光前寺(駒ケ根市)にならう」とあった同寺の『年歴私記』に注目して獅子頭・面・芸能の対比を行い、その誕生に迫った。(あわせて、座光寺麻績神社獅子舞の中断と復活の歴史にも触れ)さらに現在の獅子の大型化、それに伴う創意工夫、担い手の変化など変わりゆく民俗芸能の象徴として南信州の屋台獅子を説いた。
北村 皆雄
氏は「映像は霜月祭をどうみてきたか」と題して、映画の持つ動態記録を昭和初期に注目して撮影した渋沢 敬三、宮本 馨太郎の両氏が花祭りの里に足を運んだ昭和3年以降で、その学術的な資料映画から数えて、自分の取り組んだ2005年の「遠山霜月祭」、2010年の「遠山霜月祭」は悉皆記録の集大成であったとし、映画を撮ることの功罪、既存の映像を使って今後どのように活用するか。それを使ってどのような研究が可能かということに思いを巡らし、6本の作品の中から「神の子になる」という儀礼を取り上げ、幾つかの地域を比較。
超臨場感映像の上映と講演
牧野 光朗
氏は「飯田市におけるデジタルプラネタリウムの可能性」と題して、1988年に南信州で初めてプラネタリウム施設を設置し、2007年7月には観覧者20万人を達成、休むことなく投影してきたが、2011年3月、光学式からデジタル式へプラネタリウムを更新。新たに加わった機能を中心に、全世代の方々に楽しめる番組のラインアップを考えていると結んだ。
尾久土 正己
氏は「超臨場感映像と民俗芸能」と題して、魚眼レンズで撮影した映像をドーム一杯に下栗の霜月祭を映し出して、高画素の全天周高精細動画の再生、明るく色彩豊かな全天周映像に包み込まれる空間、デジタル映像の自由自在投影などを臨場感あふれる活用例が解説とともにバーチャルリアリティーの世界として披露した。
吉住 千亜紀
氏は「美術博物館オリジナル番組投影」と題して、オリジナル番組は飯田下伊那の自然や文化を中心に12作品の詳解と代表的な番組の上映が行われた。
第7回本田安次賞の発表
本田安次賞
佐治 ゆかり
氏
『近世庄内における芸能興行の研究 ― 鶴岡・酒田・黒森』
(せりか書房)
本田安次賞特別賞
渡辺 伸夫
氏
『椎葉神楽発掘』
(岩田書院)
・受賞者および選定理由の詳細は
こちら
10月21日(月)
見学行事
・黒田人形舞台・黒田人形伝承館
・麻績学校舞台校舎・竹田扇之助記念国際糸操り人形館
・上町正八幡宮・まつり伝承館天伯
・木沢八幡神社・旧木沢小学校
・遠山郷土館・龍渕寺
・和田諏訪神社(四つ舞見学)
以上
お問い合わせ先
- 民俗芸能学会事務局(毎週火曜日 午後1時~4時)
- 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1 早稲田大学演劇博物館内 [地図]
- 電話:03-3208-0325(直通)
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