平成24年度大会 報告 [2013/04/01 更新]
平成24年度の民俗芸能学会大会は、11月18日(日)財団法人日本青年館6階グリーティングルームで開催された。大会は掛谷 曻治 大会委員長の開会あいさつに始まり研究発表、評議員会、シンポジウム、本田安次賞の発表、総会が行われた。参加者は、延べ69名(会員57名、一般12名)
研究発表
川﨑 瑞穂
氏は「民俗芸能における《おかざき》に関する構造人類学的考察」と題して、江戸初期に流行した岡崎女郎衆という流行唄(あるいは踊唄)に淵源すると考えられる《おかざき》という囃子に共有される構造は何か、これをテーマにレヴィ=ストロースの構造人類学に則って考察した。各地の《おかざき》の構造と歌詞のヴァリアントがどのような連関を示しているかなどの分析から《おかざき》には、音程の「上/下」という対立が一定に存在している。以上から《おかざき》にはレヴィ=ストロースのいう2項対立が明確に現れているという仮説を提示した。(司会は入江 宣子 理事)
神田 竜浩
氏は「安政元年の松前神楽」と題して、松前藩社家の中心となった松前神明神社(現・徳山大神宮)の白鳥氏の当主が代々記した『白鳥氏日記』のうち、安政元年では、1年を通じて行われている神楽執行に、加えて「異国船退散之御祈祷」が藩主、松前 崇広から命じられ、祈祷を行っている。「三月廿六日は北蝦夷地異国船退散が表向き,内日は當国一ゑん異国船退散之御祈祷で二夜三日御勤.四月十八日は今日きふに異国船退散之御祈祷七社へ仰せ付けられ,今日中に御勤.同廿六日ノ昼九ツ半時ニ,七日中の御祈祷,廿六日夕七っ時より五月二日まで修行.五月九日は異国船箱館表滞り無く昨朝帰帆致し候に付き,七社へ御礼神楽.」などから松前藩主と社家との関わりを考究した。(司会は星野 紘 理事)
坂本 要
氏は「伊勢志摩大念仏の構成と傘ブク」と題して、1976年から断続的に4回の調査で、今年度現行状況と補充の調査から大念仏とカンコ踊りの関係、傘ブクの吊り下げものについて現地で撮影した映像を見ながら考察した。宮川沿いのシャグマをかぶるカンコ踊り、伊勢市海岸部の大念仏、鳥羽市の加茂五郷の柱松行事を伴うガク打ちの大念仏、旧阿児町甲賀・立神の大念仏にカンコ踊りと囃しを伴う傘ブク。波切の傘ブク。旧志摩町の大念仏と傘ブクなとの例写を行い行事の変容を詳細に報告した。(司会は大森 惠子 評議員)
質疑は略
シンポジウム
テーマ「震災地における民俗芸能再生に向けて ― 現状と課題 ―」
パネラー:
平 山徹(岩手県)、
高橋 弘則(宮城県)、
懸田 弘訓(福島県)、
茂木 栄(國學院大)の各氏
司 会 :
小島 美子
氏(学会理事・福島調査団副団長)
平山 徹
氏は、岩手県の民俗芸能には藩政時代を起源とする芸能と江戸時代以前の平安、鎌倉時代を起源とする芸能がある。私の関わる民俗芸能(赤澤芸能保存会)は藩政時代からで、南部藩と伊達藩では同じような芸能でも呼び名や踊り方に違いがあるが、人間の長寿を祈願し、五穀豊穣を祈り、悪魔退散を願い演じるため住民の愛着は強く「おれたちの民俗芸能」との思いで取り組んでいる。東日本大震災で私の住んでいる大船渡市郷土芸能協会加盟32団体も装束・備品を全部失った団体が多かった。そんな中、全国から支援金、現物の鹿の角などが寄せられた。一方、徳島県、静岡県、東京都などから招待出演、被災地での芸能発表支援など芸能の絆に感謝し、そのご恩に報いる「不死鳥のごとく復活・郷土芸能感謝の舞」を11月3日に開催したばかりである。
高橋 弘則
氏は、私たちの住む宮城県気仙沼市本吉町も練習場の施設が全壊し、全ての道具が流失してしまい、会員の殆どが被災した。ただ茫然自失の中、全国各地からの支援に勇気づけられ、まず行方不明の家族が戻ることを祈願して8月にいち早く復興祭を開催して平磯虎舞の復活公演を行うことができた。それは、「みんなで、いち早く復活させた平磯虎舞」だった。
懸田 弘訓
氏は、福島県の調査によると、死者2,962名、家屋の全壊2,100棟、同半壊71,777棟に及んだ。民俗芸能の諸道具や衣装を流された団体は60か所を超える。さらに東京電力の原発事故による放射能汚染で、その影響は200団体を数える。それにも拘わらず芸能を再開する団体も出始め、現在のところあきらめたところはない。その原動力は信仰だけでなく、これまで気づかなかった意義を自覚し始めたことである。相馬市原釜の津神社祭礼・磯部の寄木稲荷神社の祭礼、南相馬市小高地区の相馬野馬追い・村上の田植踊、浪江町請戸の田植踊、双葉町前沢の女宝財踊、いわき市豊間の磐城大国魂神社のお潮採り神事などを、震災前と震災後の模様を映像で例証した。
茂木 栄
氏は、被災当時の状況「被災者のみなさんは生存条件を奪われながら地域ごとに結束して、暴動や略奪などの混乱も起こさず整然と避難生活をする様子」を海外のマスメディアが驚きをもって称賛したという日本の新聞報道が本当であったことをアメリカへ行って知った。それは現地の日本人から日本人であることの喜びと誇りを感じたと聞いて実感したからだ。今回は民俗芸能や祭の力が地域社会ごとの民俗文化が被災者の心を癒し、復興への活力を呼び覚ます糧になってきたことが顕在化してきた1年8か月であったと思う。それは流失した集落の中で不思議なほど大小の神社の多くが津波から免れて健在であり、神社に避難して助かった多くの事実を薗田 稔(京都大学名誉教授)氏は指摘している。神社が流されなかったことで祭・民俗芸能・郷土芸能の寄って立つべき場所が残り復活の力にもなった。
休憩後、宮城県教育委員会の
小谷 竜介
氏から、復興の取り組みについて近況報告があった。
つづいて、質疑討論があり、最後に司会者のまだまだ再生途上であり、支援の必要性を説きシンポジウムを閉じた。
第6回本田安次賞贈呈式
本田安次賞
吉川祐子
氏
『西浦田楽の民俗文化論』
(岩田書院)
本田安次賞特別賞
櫻井弘人
氏
20年間に亘る「遠山霜月祭」関連の研究・展覧会・図録・映像等の成果
・受賞者および選定理由の詳細は
こちら
以上
お問い合わせ先
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