平成22年度大会 報告 [2011/04/01 更新]
平成22年度の民俗芸能学会大会は、さる11月21日(日)財団法人日本青年館5階504会議室で研究発表、評議員会、基調講演、シンポジウム、本田安次賞授与式、総会、懇親会が行われた。
研究発表
池原 真
氏(司会は髙山 茂 理事)は
「山梨県上野原市無生野の大念仏の世界・神仏の依り代としての道場~甲州の六斎念仏~」
と題して、無生野の大念仏の道場がどのような祭儀空間を作り出しているのかを「道場入り」と呼ばれる儀礼を考究した。
道場を飾る御幣・注連は同県南巨摩郡早川町京ケ島では鋸、斧、剣などの形に刻み、それは鉈、木を切る、魔よけといい、御幣にある種の力を認めている。これは甲州の六斎念仏の特徴の一つで、もう一つの御幣は神仏の依代(神仏は御幣となって降臨の姿を表す)、お腰かけ(同県富士河口湖町本栖の大念仏)、親柱頂・輿(病人祈祷の「ぶっぱらい」に用い、病人の悪霊を輿に移す)などから神仏を道場の御幣に降臨させ、念仏をあげて送り出すという祭儀が見えてくると結んだ。
久保田 裕道
氏(司会は茂木 栄 理事)は
「民俗芸能における神々の諸相~三信遠地域から~」
と題して、民俗芸能における神として(1) 宗教者の神~芸能儀礼の発生、(2) 芸能の神~神の受容、(3) 民俗の神~神の変容をあげ、三信遠地域の代表的な大神楽・花祭の構造的比較表を示して、「きるめの王子」、「へや入れ(神入れ)」、「四方がため(四方門)」「天の祭り」における諸儀礼を検討しながら、本来は高神祭祀があった論及した。
中村 茂子
氏(司会は小野寺 節子 理事)は
「「かけ踊り」の伝承と「風流踊り」としての位置づけ」
と題して、長野県下伊那地方(下栗、和合、日吉、大河内、坂部、向方、満島、中井侍、温田)の芸能名・踊り手・その他の諸役・演目名を比較表を示して「かけ踊り」が京都や奈良の貴族などの日記に「念仏拍物」「拍物風流」「念仏風流」などを張行した集団が目的地へ練り込み演じる行為を「風流を掛ける」という表現で記されているところから15世紀前半にはそれを種目名とした踊りが「かけ踊り」として継承されたと論及し、「風流踊り」と位置づけられると結んだ。
外崎 純一
氏(司会は俵木 悟 理事)は
「博物館における民俗芸能の公開~意義と課題~」
と題して、平成22年1月に青森県立郷土館で行われた「民俗芸能等特別公開」事業の紹介、実物資料の展示(無形民俗文化財の公開)手法などを中心に意義と課題について論じた。事業内容は(1) 舞台は現地の状況を再現、(2) 上演演目は省略しない、(3) 映像記録を撮り保存と活用、(4) 県内の代表的な民俗芸能を上演、(5) 解説は研究者が行うというものであったが、(1) では現地であまり見たことがない者が企画したため演者との意志疎通に欠いたこと。(5) では民俗芸能学会会員の研究者をあてたため保存会、鑑賞者ともども貴重な民俗芸能であることが認識してもらえたこと。と意義と課題を強調した。
基調講演とシンポジウム
全国民俗芸能大会第60回記念 ― 民俗芸能公開の意義と課題 ―
基調講演:
山路 興造 <全国民俗芸能大会60年の功罪>
民俗芸能は、決められた日時に土の上で演じる場合が多い。それを場所を移動させてプロセニナムアーチの内側に押し込めて観せるという方法が、問題のあることは十分に承知したうえで、60回の回数を重ねてきたのが全国民俗芸能大会である。そのためもあって基本的には民俗芸能のうち、芸能の部分をクローズアップするという手法を探ってきた。当然芸能の背後にある民俗の部分が欠落する。
戦後、人から人へと伝承される文化が、無形文化財として国の保護対象となった。その指定の動きと、民俗芸能大会という名で敢えて舞台に乗せ、その芸能を詳細に検討する機会を提供してきた歴史を、その功罪とともに振り返えってみると、あまり知られていない芸能を特に選んだこと。しかも、青年館では地元でやっているものと同じものを上演したこと。それが機能面でいうなら指定になる機会を提供してきた。第40回から研究公演を加え、民俗の部分と芸能の部分をクローズアップすることになっているのではないか。
シンポジウム
掛谷 踧治
氏は、発題を「全国民俗芸能大会の還暦と青年の生活」として、大正14年に始まった郷土舞踊と民謡の会を初代とすると全国民俗芸能大会は二代目で、この秋、多くの方々に支えられて還暦を迎えた。大会の歩みには生活基盤である地域の問題もあるが、常に地域の青年たちがいた。つまり青年団である。かつて明治時代は全国に7万余あった市町村が、近代化とともに減りつづけ、今や自治体は1700を数える。その多くは過疎・高齢化で悩んでいる。細々と継承されてきた芸能や民謡は衰退の一途である。
しかし、いま広域化した自治体で青年たちが地域の芸能やお祭りを復活させたり、支えて行こうとする動きがあちこちで始まっている。この動きを青年は勿論のこと、地域の人々の生活とどのように結びつけていくか、大きな課題として日本青年館は青年団との関係を常々考えながら地域に根づいた芸能を青年団が着目して運動として意識づけていく方策を手探りながら進めたいと考えている。(青年大会の件は略)
吉川 周平
氏は、発題を
「全国民俗芸能大会から学んだこと」
として、自身の体験を小寺 融吉 氏夫人 清水 和歌の例、本田 安次 氏の還暦祝いで毛越寺の花舞の例、小泉 文夫 氏の核音をまねて日本伝統舞踊の分析に核動作という新造語を用いた例、などをあげ、全国民俗芸能大会を含めて、民俗芸能を舞台にのせることには、さまざまな問題はあるが、現地にいってもはっきりとは見られない部分を含め、芸能のこまかい芸態を、比較検討できるという利点がある。
私の場合、盆踊りのオドリとして核になる動作が日常の両足の交互運動と異なる。同一の足を2回ずつ動かす<ボンアシ>という非日常的な動作であることを発見できたのは、この大会でのお蔭だと考えている。今後もこうした視点の研究者が育つことを心から期待している。(発題要旨配布あり)
小島 美子
氏は、発題を
「民俗芸能の公開とその展開」
として、全国民俗芸能大会を高く評価したうえで、これまではその芸能がどのような自然と生活の条件の中で生まれ伝えられてきたかということが、あまり説明されてこなかった。映像機材の発達した今日、それを用いれば効果的で予算の問題を理由に消極的になるべきではない。また、地元ツアーという手もあろう。
さらにもう一つ、全国民俗芸能大会に集まる人々の中には、民俗芸能を体系的に知りたいとか、良い調査方法を知りたいとか考える人々が、年齢層に関係なくいるに違いないので民俗芸能研究の講習会を、その日の午前中に開いてはどうか。
星野 紘
氏は、発題を
「民俗芸能の公開」
として、郡司 正勝 氏の、いわゆる民俗芸能が、どんな種類のものが、どこで、いつ行われているのか不明の時代には、各地の祭に露店を出す香具師に問い合わせるのがてっとり早かった由は、今回のシンポジウムの民俗芸能の公開の性格に言及したもので、掛谷氏のいう初代はその嚆矢であって、民俗芸能の郷土性から全国的価値評価へのレベルアップに貢献した。
その後のステージ公開は当初文化財保護行政に寄与したが、以降はセレモニーやイベントに、そして観光や地域おこしなどに活用され、今日では独立した文化催事にまで位置づけられている。40年前、現地公開補助事業で、地域の祭などでの公開と当該ステージ公開のお両者の関係には意を払う必要がある。
パネル討論では、ブロック大会を巡る議論が繰り広げられ、例えば、上演時間は一律20分、開催県は1000人位集客、記録集を出す、などから各県ごとに認識が違い、予算がないから出ないとか、創作芸能を出すとか、それに対して文化庁の指導を問う議論で白熱した。
また、民俗芸能に対して30代から50代は関心が薄く、国家的施策が求められるとしたうえで、来年度の重点施策に観光産業として80数億の予算要求が出されているので、それに期待したいとも結んだ。
第4回本田安次賞贈呈式
平成22年度の本田安次賞は
出井 幸男
氏著書の
『土佐の盆踊り盆踊り歌』
に、本田安次賞特別賞は
植木 行宣
氏著書の
『芸能文化史論集 全三巻』
に、それぞれ決定。前者は出井氏当人が、後者は体調がすぐれない植木氏に代わって令夫人がそれぞれ授与式に臨まれ、受賞の喜びと今後の抱負を述べられた。
・受賞者および選定理由の詳細は
こちら
以上
お問い合わせ先
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