平成21年度大会 報告 [2010/04/01 更新]
平成21年度の民俗芸能学会大会は、10月24日(土)、25日(日)の2日間、秋田県由利本荘市鳥海町で24日は紫水荘で評議員会、シンポジウム、総会、見学会、懇親会があり、25日は研究発表、見学会が行われた。
基調講演
講師:髙山 茂 氏「本海番楽の特色」
本海番楽は、京都醍醐三宝院の修験者・本海行人によって伝えられたといわれ、鳥海山を中心として同心円的に秋田、山形県に分布する神楽の一つで、北東北を代表する芸能のひとつである。地元に伝わる巻物に「寛永三年七月吉日、獅子頭先達 本海行人」とあり、獅子頭を用い修験的な行事を取り入れたものを「獅子舞」、獅子頭を用いない舞台芸能を「番楽」と称している。
髙山氏は本海番楽の獅子は多数の伝承地で「八幡様」として崇められ、番楽のときだけでなく生活・行事において人々を守ってくれる存在であるとし、本海番楽の特色を、映像を交えて説いた。
パネルディスカッション
髙山 茂 氏の基調講演をうけるかたちで「東北の獅子信仰における番楽」というテーマで各パネラーの発表が行われた。パネラーは菊地 和博 氏、久保田 裕道 氏、松田 訓 氏、それに髙山 茂 氏も加わって小島 美子 氏の司会で進められた。
菊地 和博 氏
山形県北部(真室川町、金山町、遊佐町)の修験系神楽・番楽を取り上げ、その伝播と芸態から獅子信仰を言及した。
久保田 裕道 氏
岩手県の早池峰山を中心とした地域に分布する山伏神楽を取り上げ、民俗の中における獅子信仰の変容という視点から問題提起を試みた。
松田 訓 氏
本海獅子舞伝承者懇話会を代表して伝承者の「これまでの取組み」と「今後の取組み・課題」について披露した。
小島 美子氏
東北地方の神楽は山伏神楽、番楽、能舞など獅子神楽が圧倒的に多いのは、修験者たちが獅子神楽的なものを伝えて始まったとしても、それ以前にシシ(食肉になる四肢の動物たち、シカ・イノシシ・クマなど)に対する信仰やそれを表す芸能的なものがあったからではないか、と結んだ。
研究発表
平 辰彦 氏
テーマ
「岡本新内の秋田伝承考 ― 横手市雄物川町の伝承をめぐって ―」
岡本新内の歌謡の歌詞と舞踊の振りの両面を通して秋田県の伝播と、その形成について明らかにした。
質疑では音楽的な推移、秋田移入のとき地域のかかわり、郷土芸能としているところの有無、などが交わされた。
小田島 清朗 氏
テーマ
「秋田県仙北神楽と、その山の神舞について」
仙北神楽は平成の合併前の大曲市の伊豆山、角館町神明、仙北町高梨、大森町保呂羽山の神楽を指し、山の神舞は仙北神楽の中核で、「山の神舞を覚えれば他の舞もできる」といわれる。それを取り上げて秋田県内の番楽、岩手県の山伏神楽との関連を含めて、その特徴を論及した。
質疑では山の神舞の独自のかたに質問が集中した。
神田 より子 氏
テーマ
「山伏神楽から見た番楽 ― 鳥海山周辺を中心に ―」
本田 安次 著『山伏神楽・番楽』から、今回その地域において権現舞あるいは獅子舞がどのようにして修験者と地域社会を結びつけていたのか。現在のところ、地域に定着した個々の修験者だけではなく、一山を構え修験集落を形成してきた地域でも獅子舞は重要な儀礼と宗教活動の一翼を担っていた。一方そうした宗教集落とは異なり、少人数の修験者が集落単位の人々に対して布教活動を行ったり、それに伴って経済活動を行う場合、自ずとそこで取り上げられる芸能は異なってくる。山伏神楽や音楽は後者の芸態で、そのあり方も違ってくる。そうした場の違いを想定して今後は修験者が関わった儀礼や芸能を再考する必要があると結んだ。
質疑では既成概念の捉え方に集中した。
以上
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